後ろから見ると、尻から太ももにかけての筋肉の盛り上がりがよく分かる
どんな重い力士も正面から寄り切る怪力ぶりがクローズアップされるジョージア出身の新大関栃ノ心(30)=本名レバニ・ゴルガゼ。そのパワーの源と素顔を、本人や関係者の証言から紹介する。
相撲特集:どすこいタイムズ
栃ノ心と言えば、丸太のような太もも。部屋関係者によると周囲は約90センチあるという。
旧ソ連発祥のサンボ、柔道と、入門前は別の格闘技をしていたことに加え、故郷の野山を走るのが好きだった。さらに、実家がワイン農家だったことも後押ししたようだ。果汁を搾るのはレバニ少年の仕事。布の上から3時間ブドウを踏み続ける日もあった。
上半身もジョージア時代に鍛えた。10代の頃から、腕の力だけでロープを登るといった筋トレが趣味だったという。
その蓄積がまわしをつかむ握力につながっている。今年2月に測ったところ、右手が70キロ、左手が76キロだった。目を引くほどの好記録ではないが、実は、握力計に太い指が入りきらず、力を出し切れなかったのだそうだ。
上手を引きつける左腕には、こんな逸話がある。
スポーツトレーナーとして春日野部屋力士を担当する遠藤定義さんは、仰向けの栃ノ心に覆いかぶさるように治療する。靱帯(じんたい)を直接もみほぐす手法なのだが、ある時、遠藤さんの体がいきなり宙に浮いたことがあるという。激しい痛みを感じた栃ノ心が、反射的に左手1本だけで体重約70キロの遠藤さんを持ち上げていたのだ。
「相撲以外のどんな格闘技をしていても、あいつは上に行けたはずだよ」と遠藤さんは話す。ちなみに柔道家時代、唯一勝てなかったのが、後に北京五輪100キロ超級準決勝で石井慧に敗れたグゼジャニ。サンボで「あんまり強くなかったなあ」と振り返る同郷の選手はいま、世界最高峰と言われる米国の総合格闘技団体UFCで活躍している。
納豆やウナギなど、海外から日本に来た人が苦手に感じることもある食べ物を、栃ノ心は好んで食べる。料理も得意で、マイ包丁は常時5、6本。スパイスも複数取りそろえていて、付け人や若い衆にジョージア料理を振る舞うこともある。
気は優しくて、力持ち。昭和のお相撲さん像を地で行く栃ノ心には、弱点もある。「ヘビ。一回も触ったことがない。見たくないし、気持ち悪い」。故郷に比べて遭遇する機会の少ない日本は、やっぱり過ごしやすいそうだ。(鈴木健輔)