祖父が大好きだった海を望む田中里奈さん(左)と道子さん=岡山県瀬戸内市
何げなく開いた雑誌に、少年の写真があった。朝日新聞記者が1935年に沖縄で撮影した1枚だ。「おじいちゃんに似とるなぁ……」。京都市の会社員田中里奈さん(37)はそう感じて母親に連絡。亡き祖父の若かりし頃を知ることになった。
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頭に水中メガネの少年に…
舟の上で魚を掲げる「糸満漁師」の右下にいる水中メガネを頭につけた少年。雑誌「サライ」(小学館)5月号に掲載された。朝日新聞大阪本社で見つかった写真の特集ページだった。
7年前に90歳で亡くなった祖父が、沖縄・糸満の漁師に売られた話と重なり、田中さんは「少年が祖父だ」との思いを強くした。岡山県瀬戸内市の実家で暮らす母の道子さん(69)も賛同してくれた。目や鼻、口元などに面影が残っているという。
祖父は大濱高利さん。1921年福岡生まれだが、家族で母の出身地・石垣島に移った頃、糸満の漁師に奉公に出されたとみられる。「サバニ」という小型木造舟で海に出て、素潜りでのフカ漁や追い込み漁をしていた。
終戦直前に岡山県牛窓町(現・瀬戸内市)の工場に就職。多趣味だったが一番好きなのは海に出ることで、手こぎの舟を買い、素潜りして銛(もり)で魚を突いていた。自宅近くの高台から海を見下ろしては「なんぼ見てても飽きん」とつぶやいていたという。
田中さんは大学進学まで、祖父宅の隣に住んでいた。中学生の頃までよく一緒に舟で釣りに出て、漁師の頃の話も聞いていた。
「祖父の足跡たどる旅を」
だが今回初めて、写真でサバニを見て、10歳前後で漁師に売られて年季奉公する「糸満(いちゅまん)売り(うい)」という言葉を知った。祖父の少年時代の姿が具体的になり、石垣島の漁師に売られた少年が主人公の小説も読んだ。
写真の少年が祖父かどうか確証はない。ただ、写真をきっかけに祖父のことを深く知り、より身近に感じられるようになった。田中さんは「祖父の足跡をたどる旅をしてみたくなった」と話している。
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写真は横浜市中区の日本新聞博物館(ニュースパーク)で開催中の企画写真展「よみがえる沖縄1935」(同博物館、朝日新聞社、沖縄タイムス社主催)で展示されている。7月1日まで。問い合わせは博物館(045・661・2040)へ。(吉田拓史)