沖縄大会の始球式で投球する安仁屋宗八さん=2018年6月23日午前10時35分、沖縄県沖縄市、日吉健吾撮影
今年で100回を迎える全国高校野球選手権大会の地方大会が23日、沖縄と南北北海道で開幕した。沖縄大会の始球式に登場したのは沖縄高校(現沖縄尚学)の元エースで、プロ野球広島などでも活躍した安仁屋宗八(あにやそうはち)さん(73)。沖縄にとって「慰霊の日」でもあったこの日、平和への思いを胸に1球を投じた。
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安仁屋さんは1962年に甲子園に出場し、沖縄球史に名を刻む。始球式でボールを投げた後、「ストライク入ってよかったなあ」と笑顔で語った。「こうやって100回大会を迎える。すごく感動している」
「1県1校制」になる前、安仁屋さんらは南九州大会を制して甲子園の土を踏んだ。沖縄勢は4年前の記念大会で首里高校が初出場したが、安仁屋さんらが「初の自力」と言えた。
当時、沖縄は米国の統治下。予防接種を受け、パスポートを手に、憧れの舞台に向かった。「ツタの生えた阪神甲子園球場が見えて、なんてきれいなんだと思った。中に入ったら何万人ものお客さんがいて、足がすくんだよ」
試合の相手は広島代表の広陵高校。一度は4点差を追いついたものの、4―6で敗れた。「出られただけで満足でしたよ。あそこで投げられた。悔いはない」
スタンドでは沖縄出身者だけでなく、多くの人たちが声援を送った。エイサーが踊られ、指笛も響く。「ほとんどが沖縄を応援してくれた。あの光景は忘れない」
現在は広島に住む。地方大会に足を運び、テレビで放映される甲子園の熱闘に心を躍らせる。「平和だな、と感じるんです。スポーツは平和でなければできない。高校野球が今まで続いているのも、平和だからですよ」
太平洋戦争末期の沖縄戦の犠牲者らを悼む慰霊の日を前に22日、安仁屋さんはひめゆりの塔や戦没者の墓地を訪ねた。二度と戦争が起きないよう、平和への思いを次の世代につなぎたい。そう願った。
この日の始球式は、100回大会の記念イベント「100回つなぐ始球式リレー」が全国の地方大会を巡る幕開けでもある。安仁屋さんの投じたものを含めた九つのボールが各地で計99回投げられ、8月5日に甲子園である全国大会の始球式につなげる。
最初の「登板」となった安仁屋さん。リレーの記念として用意された色紙に「一球一心」と書いた。心を込めて一球を投じる、という意味だ。込めた思いは「平和をつなぐ」こと。安仁屋さんの思いのこもったボールが各地を回り、甲子園へとつながっていく。(佐藤岳史)