旅行口コミサイトで「日本一外国人に人気がある飲食店」に選ばれ、行列が絶えなかった大阪市西成区のお好み焼き屋が、台風21号の影響で休業を余儀なくされている。
通天閣がそびえる「新世界」から南へ抜ける商店街の路地裏で59年前から営業を続ける「お好み焼き ちとせ」。パイナップルを生地に練り込むなどユニークな味付けに加え、外国人にも優しい接客が人気を呼んで、昨年、旅行者の口コミサイト「トリップアドバイザー」で国内約50万店の中から「外国人人気日本一」に選ばれた。
4日午後。店主の前田秀基さん(64)は台風のため店を休んで、近くの自宅にいた。風がおさまった頃、友人から「隣の空き家が崩れている」と電話があった。棟続きの隣家の屋根が崩れ、その重みで植わっていた木が倒れて店の入り口に覆いかぶさっていた。隣家は30年ほど前から空き家だといい、消防は倒壊の可能性があるとして、店へとつながる道路を封鎖した。
店に大きな被害はなかったが、前田さんは休業を決めた。「お客さんがけがをしたら大変。隣が片付くまでは開けられない」。空き家の所有者の親族が見つかり、撤去に向けた話し合いが持たれたが、すぐ取りかかれる解体業者が見つからない。「台風で業者さんも手いっぱいなんですわ」
店内で片付けをしているとオランダ人のカップルが訪ねてきた。ちとせのお好み焼きを食べようと、愛知を経由してやってきたという。
「台風で店に被害があったのでしばらくお休みです」。近くのお好み焼き屋を英語で案内した。2人は「幸運を祈っています」と言い残し、残念そうに立ち去った。
台風では近くの通天閣のガラスの一部が割れ、商店街の看板も吹き飛ばされた。外国人観光客の玄関となっている関西空港は滑走路が冠水したり、ターミナルが停電したりした影響で全面復旧まではまだ時間がかかりそうだ。周辺のホテルによると、キャンセルが相次ぎ、10月以降の予約も激減しているという。前田さんは「再開はいつになるかはわかりません。ほとんどのお客さんは関空経由で来ていたので、にぎわいを取り戻すまで時間がかかりそうです」と肩を落としていた。(高橋大作)