産業革新機構を改組して9月に発足した官民ファンドの産業革新投資機構(JIC)は、懸案の一つになっている海外需要開拓支援機構(クールジャパン機構)との統合が困難になっていると明らかにした。複数の官民ファンドをJICの傘下に入れる再編を検討している政府は、まずはクールジャパン機構を傘下に置く方針だったが、再編計画は早々につまずきそうだ。
JICの田中正明社長(元三菱UFJフィナンシャル・グループ副社長)が朝日新聞のインタビューに応じ、クールジャパン機構との統合について「今年度はまったく無理」と難色を示した。産業競争力強化法の改正により、JICは他のファンドの取得も可能になったが、田中氏は「他ファンドの引き受けは、JICの業務に支障がないことが前提。将来の課題ではあるが、今は(子ファンドの)立ち上げに専念したい」と述べ、消極的な姿勢を示した。
クールジャパン機構との統合に難色を示す背景には、同機構の不振もある。同機構はマンガや和食など日本文化の輸出を掲げて設立されたが、出資した日本アニメの海外配信事業は中止に。2013年の設立から赤字続きで、今年6月に経営陣が一新された。米国で「日本茶カフェ」事業を展開する運営会社の共同出資者から、損害賠償を求める訴訟も起こされている。
安倍政権は成長戦略の一環として、官民ファンドを相次いで設立。現在は14の官民ファンドがあるが、会計検査院が損失の発生や非効率な運営を問題視し、今年4月に改善を要望。政府はJICを持ち株会社化し、乱立する他の官民ファンドを再編しようとしているが、ともに経済産業省が所管するJICとクールジャパン機構の統合すら難航していることが明らかになった。所管官庁が経産省ではないファンドとJICとの統合は一段と難しいとの見方も出ている。
JICは国内最大級の官民ファンドで、投資能力は4兆円規模。産業革新機構が、経営難に陥った企業を救済する「国策」的な投資が目立ったと批判されたことを受け、田中氏は「ゾンビ企業の延命はしない」と強調した。来年3月末までに傘下に認可ファンド(子ファンド)を設ける準備中で、ベンチャーや創薬・AIなど新ビジネスへの投資に力を入れる方針だ。田中氏は、クールジャパン機構に左右されずに新規案件を進めたい考えを示した。(栗林史子、大鹿靖明)
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