プロ野球の新人選択(ドラフト)会議で中日から1位指名を受けた大阪桐蔭高の根尾昂(あきら)内野手(18)=岐阜県飛驒市出身=の「愛読書」が売れている。野球の実力のほか、学才や読書家の一面がテレビなどで伝えられると、根尾選手が読んだ本は人気を集め、版元は6万部の重刷を決めた。
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11月1日午後、三省堂書店名古屋本店(名古屋市中村区)の特設コーナーで客が次々と足を止めた。本を紹介するポップが目を引く。
「未来のミスター・ドラゴンズ」「文武両道の秘密は読書にあり!」「父から毎月届く20冊『気になるタイトルは読みあさる』」
コーナーには根尾選手が読んだという「思考の整理学」(外山滋比古著)や「現代語訳 論語と算(そろ)盤(ばん)」(渋沢栄一著)が平積みにされていた。名古屋市中区の沢舘トモ子さん(72)は最後の1冊になった「論語と算盤」を手に取った。
「文武両道で素晴らしい子が読む本ってどんなのだろうと思って。読み終わったら息子にも読ませたい」
フィーバーのきっかけはテレビのようだ。この店では、中日が交渉権を獲得した10月25日のドラフト会議の翌日に、特設コーナーを置いた。テレビが根尾選手の「読書家ぶり」を伝えたこともあり、売れ行きは約10倍に伸び、1週間足らずで計約60冊売れたという。
「思考の整理学」「論語と算盤」は今後さらに計300冊、入荷予定だという。担当の本間菜月さん(33)は「『思考の整理学』は東大・京大で一番読まれた本と言われており、どちらも就活生や社会人1年目の人がよく手にする。こんな難しい本を高校生が読むなんて。大人の私の背筋が伸びます」と、驚いた様子で話した。
2冊の版元である筑摩書房(東京)も喜んでいる。
「思考の整理学」は「自分にとって何が大事か」を考えて、情報の取捨選択が必要であると伝えており、1983年の刊行以来、計226万4400部発行された。幕末以降に活躍した実業家渋沢栄一による「論語と算盤」には経営哲学がまとめられ、「未来に向けてどう動くべきか」が説かれている。
ドラフト直後から、筑摩書房は文庫版「思考の整理学」の3万部の重版を決定。今後の反響を想定し、11月1日には1万部の追加も決めた。「論語と算盤」も2万部重版する。筑摩書房では新刊の文庫の場合、初版の発行部数は通常、約1万部ほどという。
今なお名古屋を中心に大型書店から100冊単位で発注が相次いでおり、根尾選手の地元岐阜県や高校のある大阪府の書店からも注文が多いという。
営業部の尾竹伸さん(40)は「ドラフト会議の様子をみて、多くの方がその発言やリーダーシップにも注目したのだと思う。根尾さんという人物を形づくったであろう書物がどんなものなのか、野球ファンにとどまらず世代を超え、多くの方が関心を持ったのではないか」と話している。
「思考の整理学」著者の外山さんは筑摩書房を通じてコメントを寄せた。
「スーパースターの根尾くんと『思考の整理学』がつながっているなんて、こんなにうれしいことはない」(西岡矩毅)