シリコンバレーを生きる シリコンバレーで年に1度、日米を結ぶイベント「スタンフォード・シリコンバレー・ニュー・ジャパン・サミット」が開かれる。昨年は日本企業150社、シリコンバレー企業85社が参加。参加者は、日本から出張した約200人を含む約600人に上った。シリコンバレーで日米のビジネスを結ぶイベントとしては最大規模だ。日米の企業の出会いの場を提供し、日本企業がシリコンバレーでつきあたる様々な問題を共有する。サミットを立ち上げたのは、スタンフォード大研究員の櫛田健児さん(40)だ。 櫛田さんは日本人の父と米国人の母のもと、日本で育った。大学から米国に渡り、スタンフォード大経済学部を卒業後、カリフォルニア大バークリー校で政治学の博士号を取得。スタンフォード大に戻り、技術革新と政治経済制度との関係やその力学を研究してきた。例えば、優れた技術でも、なぜ世界に浸透するものとしないものとがあるのか。それを分析するのが研究テーマだ。 シリコンバレーの中心にあるスタンフォード大にいると、シリコンバレーで日本の存在感はまだまだ薄く、駐在員を置いても思うように成果を出せない企業が少ないことに気づいた。シリコンバレーにいる日本人同士が知り合うコミュニティーがないという問題もあった。 二つの言語、二つの文化の中で生きることの良さも難しさも、自ら経験してきた。「自分の経験と知識を生かせないだろうか」。そう考えた。 2014年、シリコンバレーにいる日本の起業家や日本企業の駐在員などを中心に、それぞれの会社がどのような経験をしているのかを語りあい、ネットワークを広げる公開フォーラムを始めた。40人程度で始まった会合は次第に大きくなり、毎月開いている。16年からは年に1度の大きなサミットも開催している。 では、日本企業がシリコンバレーでよく直面する問題や解決策とはどんなものなのか。いくつかの例を語ってもらった。 目的見えない駐在と視察 日本の会社は、「最新の情報収集」「アンテナを張るため」といった漠然とした目的意識でシリコンバレーに駐在員を送ることがままある。しかし、自分たちはいまどういう技術を持っていて、何をシリコンバレーから得ようとしているのか、といった明確な目的がないと、相手にされにくい。たいていの場合、駐在員に大きな権限はない。「米国のスタートアップは、決裁権も予算もない人は相手にしてくれません」 また、よくあるのが、日本からの「視察」をめぐる話だ。日本の大企業はシリコンバレーに行って企業名を出せばみな会ってくれると思っている、という。ところが、日本の本社から現地の駐在員に視察のアポ取りをさせても、なかなかとれない。本社からは「お前の努力不足だ」「うちが行くのになんで見せてくれないんだ」などと怒られ、駐在員が板挟みになるというのもよくある話。中には、日本から別の部署の幹部が次々にやってくるため、現地の駐在員がひたすらアポ取りに追われ、「旅行代理店」となってしまうこともあるという。 まず、米国では、ただ本社を見に行くとか、あいさつに行くといった習慣があまりないことを知る必要がある。「特にスタートアップは、少ない人員と資金の中で回しているので、具体的な商談もないまま来られて、貴重な時間を奪われることを非常に嫌がります」 もう一つ、櫛田さんが懸念するのは、無理を言ってアポを取った揚げ句に、若者中心のスタートアップを見下すような態度をとる人がいることだ。中には、こうしたことが繰り返され、日本からの視察を受け入れなくなった会社もある。日本のように、年齢や会社の規模、肩書などでヒエラルキーがつくられる場所ではなく、多くの人が対等な関係を前提にしていることを理解する必要がある。 本社の決済を簡略化 日本とのスピードの違いは様々なところに表れる。例えば、秘密保持契約(NDA)がある。NDAは米国では広く使われており、他社と簡単なミーティングをするだけでNDAに署名しなければならないこともある。しかし、日本の会社はNDAを交わすだけで、本社の決済が必要なことも多く、ときに何カ月もかかる。「シリコンバレーはスピード勝負。会うだけで何カ月もかかっていたら、相手にされません」。そこで、ある日本企業はこれを簡略化して、1枚の紙で済ませるようにした。これによって、現地企業とのやりとりが素早く進んだ。 先取りしすぎた情報 シリコンバレーでブロックチェーンの構想が最初に話題になったのは、2008年ごろのこと。2012年ごろにはビットコインも登場して大きな話題になっていた。しかし当時、シリコンバレーにいた駐在員は「日本の本社に報告しても、まったく反応がなかった」。3年後、日本でブロックチェーンが話題に上り、「なんでもっと早く言わなかったんだ」と怒られた、という話もある。先取りしすぎた情報は、あまり役に立たないということを意識しておくことも必要だという。 ベンチャーキャピタルの特異性 最近は企業内でベンチャーに投資するコーポレートベンチャーキャピタル(CVC)がシリコンバレーに多く進出している。しかし、シリコンバレーでやっていくノウハウのない会社は、CVCを作ってもだれに任せていいのかわからず、「日本語ができる人」「話がしやすい人」といった基準で選んでしまいがちだという。 「ベンチャーキャピタルというのは、投資銀行と比べると動き方もノウハウもまったく違う。ただ金融業界にいたから、というだけでは務まりません」。日本企業の中には、投資へのリターンは期待せず、事業にプラスになればいいという会社もある。しかし、「ただ投資が下手で利益が出ていないのか、別の理由なのか区別がつかず、それを第三者がきちんと見分ける体制もないことが多い」と指摘する。そうした会社を狙って、怪しい投資話が次々と集まることも珍しくない。「知識がない人が来ると、シリコンバレーはかなり怖い場所。でも、一つ一つ勉強して知識を積み上げれば、十分に活用できることも知ってほしい」 人脈づくりで苦労 シリコンバレーはインナーサークルに入らないと何もわからない世界だ、と櫛田さんは言う。しかし、人脈づくりで苦労することが多い。 英語がうまく話せない場合は、趣味や得意なことから友人をつくっていくことをすすめる。英語があまり話せなかったある日本企業の駐在員は剣道ができた。そこでグーグルの剣道部やスタンフォードの剣道部に出向いて一緒に剣道をやるうちに、仕事上での知り合いを増やしていったという。 また、家でBBQパーティーをして仕事上の知り合いを呼んだり、家族づきあいをしたりしたら急に滞っていた案件が進むようになったという話もあった。 「日本では仕事とプライベートをはっきり分けるけれど、シリコンバレーでは、いい家族だったとか、いい子どもだったとかいうことが仕事に大きな影響を与えることがある。意外にウェットな人間関係だということも知っておいた方がいい」 成功例、失敗例を共有 これまでに、フォーラムやサミットで多くの日本企業の成功例、失敗例が共有されてきた。こうしたノウハウが蓄積されていけば、よりうまくシリコンバレーを活用する方法があるはずだと、櫛田さんは言う。 「シリコンバレーにいる中国勢は、もっと大きなイベントをやっているので、まだまだです。もっとこのつながりを広げていきたい」(完)(宮地ゆう) |
米ベンチャーと付き合うコツは「ウェットな人間関係」
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