23日に開幕した選抜高校野球大会。1985年夏以来の甲子園出場を21世紀枠で果たした熊本西は、そのときに対戦した福島県の磐城と、東日本大震災と熊本地震というそれぞれの災害を経て、支え合ってきた。
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磐城の監督室には「一期一会」と手書きされた1ダースのボールが保管されている。熊本西が甲子園に出場した当時の校長、木下俊文さん(90)=熊本市=が、8年前に贈ったものだ。
2011年3月11日、巨大津波が押し寄せる映像をテレビで見た木下さん。「磐城は大丈夫だろうか……」。慌てて地図で磐城の学校の場所を調べた。
学校自体に大きな被害はなかったが、避難所として利用されていた。その年の6月、「選手たちが東日本大震災を乗り越えられるように」との思いを込めて、60個のボールを贈った。
16年4月14日と16日、震度7の地震が熊本を襲った。2カ月後、今度は熊本西にボールが届いた。磐城の木村保監督(48)らが恩返しに贈ったものだった。
受け取った横手文彦監督(43)は「ありがたかったが、そのときは当時の詳しい経緯を知らなかった」と言う。地震で熊本西も貯水タンクが壊れるなどの被害を受け、車中泊を余儀なくされる生徒も多く、多忙な日々を送っていた。
磐城は熊本西と同じように今大会、21世紀枠の福島県の推薦校に選ばれていたが、落選した。出場決定後、横手監督は「選ばれなかった学校の思いも背負って堂々とプレーしよう」と部員に伝えた。霜上幸太郎主将(3年)は「熊本地震のときに全国から応援や支えをうけた。感謝の気持ちをもってがんばります」。
磐城の木村監督は「プレーできるのは支えがあってこそ。先輩がつくってくれた縁を大切に、熊本西を応援したい」と話している。
交流のきっかけをつくった木下さんは「勝ち負けだけじゃないのが高校野球。白球を通し、『一期一会』の新たな友情を築いてくれれば」と願っている。(清水優志、角詠之)