野菜くずを食べるダチョウ=下松市
廃棄物+ダチョウ=花粉症にやさしいのどあめ。なぞなぞみたいなこの組み合わせ。種を明かすと、廃棄物として出された食物をダチョウに食べさせ、そのダチョウが産んだ卵からアレルギーの緩和が期待できるのどあめを作り出す、中特ホールディングス(山口県周南市)の事業展開だ。奇想天外なこの組み合わせは「生活環境革命」を掲げる社長の思いつきから生まれた。
下松市にある廃棄物処理工場。その一角にダチョウの飼育施設はある。飼われているのはオス2羽とメス5羽。そう、ここは廃棄された食べ物をダチョウの飼料として活用する「食品リサイクル」の拠点なのだ。
朝8時過ぎ、1台の軽トラックが到着した。荷台から運び出されたのは、周南市内のスーパーで収集したキャベツやレタスなどの野菜くず。食べやすいようにと裁断機で細かく砕いてえさ箱に入れると、長い首がニュッと伸び、うまそうに食べ始めた。
「7羽で1日70キロもの野菜くずを食べてくれるんですよ」と山本勉さん(30)。廃棄物の処分方法などを研究する未来開発部のリーダーだ。
飼育を始めたのは6年ほど前。橋本ふくみ社長(53)が親しい人との雑談で「ダチョウは何でも食べる」と聞き、着目した。
当時、スーパーなどから廃棄された食品のリサイクル方法について試行錯誤を重ねていた。毎日、食べられるものがたくさん捨てられていた。これを、可燃ごみとして処分するのはもったいない。が、食品リサイクルの設備は複雑でコストもかかった。
「何事も行動しなければ始まらない」がモットーの橋本さん。ダチョウを食肉用として飼育する鹿児島県の畜産業者を訪ねた。
よく食べるだけじゃなかった。声帯がないため鳥なのに鳴かず、騒音で周囲に迷惑をかけない。おまけに腸が長いので消化吸収が良く糞尿(ふんにょう)が臭わない。しかも寿命は50~60年と長い。
「これはいいぞ」。さっそく山本さんがダチョウ牧場に派遣され、1週間ほど研修をした結果、活用できるとの手応えをつかんだ。「よし飼ってみよう」
橋本さんらの期待に7羽はよく応えた。キノコ以外ならどんな野菜や果物も食べる。それだけでも満足だったが、思わぬ「副産物」に気づいた、という。
メスの5羽が産む大きな卵だ。年間約200個。1個あたりの重さは1・5キロほどもあり、鶏卵の20個分に相当する。最初はたまご焼きにしたり、洋菓子にしたりして社内で食べていたが、とても食べきれない。
ダチョウの卵からウイルスや細菌など外敵から身を守るのに役立つ「抗体」をつくる技術を研究している京都府立大学の塚本康浩教授と出会い、共同研究が始まったのは2013年のことだ。
アレルギーの原因となる物質(アレルゲン)をメスに注射すると、体内にできた抗体が濃縮して卵黄へ移動する。卵が巨大なため大量の抗体を一度に取り出せるうえ、えさ代のかからない食品リサイクルと連動させることで低コスト化を可能にしたのだ。
翌年にはハウスダストによるアレルギー予防や症状緩和が期待できる抗体入りスプレーを商品化。今年3月には、スギ、ヒノキ、ブタクサ、イネの花粉アレルゲンに対する抗体を含んだ「黒糖のど飴(あめ)」(15個入り1080円)が誕生した。
卵1個から取り出せる抗体は2グラムほどで、9万個分のあめに使える。パッチ試験では花粉症患者がこの抗体を摂取すると、むずむず感やくしゃみ、鼻水などの症状が改善された。花粉症を引き起こすヒトの抗体が作られる前にダチョウ抗体がアレルゲンを覆い、無害化してしまうためという。
「生活や環境の様々な問題を解決し、人々を幸せにするのが我が社の使命。そのためには革命を起こすぐらいの発想の転換が必要」と橋本さん。旺盛な好奇心は尽きることがない。(三沢敦)
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〈中特ホールディングス〉 周南市を拠点に一般廃棄物収集運搬、産業廃棄物処理、リサイクルなどの事業を手がける中特グループの中核企業。グループ全体の従業員は約100人、17年度の売上高は約13億円。