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ルールも変える平成の怪物・松坂 「再試合なら投げた」

(1998年準々決勝、横浜9―7PL学園)


それは歴史に残り、歴史を変える熱戦となった。


「あの試合はほかの試合とは比べられない特別な試合ですね」


あの夏から20年たった今も、横浜のエース松坂大輔はそう振り返る。


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延長十七回、完投でPL学園を振り切った横浜の松坂



1998年夏の第80回全国高校野球選手権記念大会。東西の横綱は準々決勝で激突した。両校は同年春の第70回記念選抜大会の準決勝でも対戦。横浜が3―2で逆転勝ちし、そのまま優勝を果たした。


夏の再戦もPL学園に先手をとられた。二回に一挙3失点。松坂が先取点を許すのも、1イニングに2点以上失うのも、この大会初めてのことだった。


「マツ(松坂)は朝が弱かった」とチームメートは口をそろえる。午前8時半の試合開始に合わせ、「たしか4時起き。なかなか寝付けず、2時間ほどしか眠ってない。宿舎から球場に向かうバスで寝てしまい、体が重くてしょうがなかった」と本人も打ち明ける。


PL学園の主将で三塁コーチをしていた平石洋介が、捕手の動きから松坂の球種を読み取り、打者にかけ声で伝達していたという裏話もあった。


しかし、王者もすぐに反撃を開始し、5―5で延長へ。「平成の怪物」こと松坂も、次第にエンジンがかかっていった。それなのに十一回、十六回に奪ったリードを守ることができない。「PLは本当に強かった。ぼくは途中から決着はつかないだろうと思っていた。十三回ぐらいから、再試合のことを考えていた」


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高校野球について語るプロ野球中日の松坂大輔=吉本美奈子撮影



この試合が決着した直後のインタビューで、松坂は「明日の準決勝は投げません」と明言した。ぼくは渡辺元智監督を取材しながら松坂の声も聞こえる場所にいた。「監督、松坂君が明日は投げないと言っていますが」と質問すると、「そうですか。本人が言うなら投げないんでしょう」とムッとしたと記憶している。


「渡辺監督が大会前に、4連投はさせないと言っていたからなんですが、覚えていなかったのかな? とにかく疲れていた。スイッチが切れたというか」。笑って懐かしむ松坂だが、「もしPLと再試合になっていたら自分が投げた」と言い切る。「監督にどうするかと聞かれたら、迷わずいきますと答えましたね」


いつ終わるともしれない戦いはしかし、十七回に突然、決着の時を迎えた。横浜は敵失で2死一塁。途中出場の常盤良太が直後の初球をとらえた。右中間席に飛び込む決勝2ラン。三塁ベンチ前でキャッチボールをしていた松坂は「逆光で打球が見えなかったけど、観客の反応で本塁打と分かった」という。


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延長十七回、勝ち越し2ランを放つ横浜の常盤



「泣いてたよな」と今も仲がいい常盤にからかわれると「泣いていないよ」と笑って答えるが、「ゾワッとしたというか。それぐらい思いがこみ上げてきたのは事実」と認めている。


その裏を松坂が3人で抑えて、3時間37分の熱戦に終止符を打った。最後の打者から三振を奪った瞬間、松坂は両腕をダラリと下ろし、大きく息を吐いた。


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延長十七回、本塁打を浴びてひざをつくPL学園の上重



予告通りに先発を回避した準決勝は明徳義塾に大逆転勝ちし、決勝は京都成章を相手に無安打無得点試合を達成。春夏連覇に花を添えた。幾多のドラマが生まれた記念大会を代表する名勝負が、延長十七回の熱闘だ。


「プロ入り後も重圧がかかる試合は経験したけど、いまだに、あれ以上に苦しい試合はありません」


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PL学園戦で投げる横浜の松坂



渡辺監督は後日、「私も選手も十四回あたりから異常な精神状態になった。選手に後遺症が残らないか心配だった」と語った。この発言がきっかけとなり、日本高野連は2年後から、延長の回数制限を十八回から十五回に短縮する。そして20年後の今年、延長タイブレーク制が導入された。


「短期間に球数を多く投げる負担は大きいですからね。ぼくはたまたま大きな故障につながらなかったけど。準決勝の日もキャッチボールしながら、全然投げられると思ってましたから」


「平成の怪物」は、こともなげに言うのである。(編集委員・安藤嘉浩)



まつざか・だいすけ 1980年生まれ。高3夏の甲子園決勝でノーヒットノーランを達成し春夏連覇。07年、大リーグ・レッドソックスでワールドシリーズ制覇。プロ20年目の今季は中日で活躍。


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