米ノースダコタ州は広大な穀倉地帯「ファームベルト」の北辺にある。スコット・ゴースローさん(38)と父親のデーブさん(63)は約1千ヘクタール、地平線の先まで広がる農地を経営する。半分を占めるのは大豆だ。
7月、トランプ政権が中国への高関税措置を発動すると、中国は同規模の報復措置で応じた。中国が標的にしたのが大豆だ。11月の中間選挙に向け、トランプ大統領への支持が強いファームベルトを狙い撃ちにする戦略だった。
ノースダコタの大豆畑は、中国市場の存在が前提だ。鉄道と船による中国市場へのアクセスの良さを生かして1990年代から生産量は飛躍的に伸び、2017年には90年の約20倍に。そのうち7割が中国向けだ。
4月、中国が米国産大豆を報復関税の対象にすると予告した後、大豆の先物相場は一時、2割超も下がった。関税の応酬が秋の収穫期まで続けば、スコットさんの農場への打撃は避けられない。
今のところ、ファームベルトのトランプ人気は底堅い。スコットさんとともに、大統領選でトランプ氏を支持したデーブさんは、「自分が知る農家のほとんどは、まだ忍耐を続ける気だ」と話す。
スコットさんは「ほかにいい言葉がないから言うが……」と、前置きして複雑な心境をこう語る。
「『戦争』には犠牲者がつきものと分かっている。でも悔しい。中国とは良い関係を築いてきたから」
勝者の定かでない通商紛争が、出口の見えないまま激しさを増している。(米ノースダコタ州リッチランド郡=青山直篤)