【イスタンブール=佐野彰洋】欧州に大量の難民らが押し寄せる「難民危機」を巡り、トルコが対欧州連合(EU)交渉で強気の姿勢を貫いている。流入抑制にはトルコ側の協力が欠かせないEU側の事情を見透かし、巨額の資金支援やビザの自由化など最大限の成果を引き出す狙いがある。
「(資金支援の)第1弾として、30億ユーロ(約4千億円)を協議している。必要額は増える可能性がある」。19日のテレビ番組で、ダウトオール首相はEUに対し新たな資金支援を求める考えを表明した。いちど限りの支援ではなく、毎年実施されるべきだとの考えも強調した。
EUは15日の首脳会議でシリア難民らの流入抑制でトルコの協力を仰ぐ「行動計画」を承認。合意ムードを盛り上げたが、トルコ側は「受け入れがたい」(シニルリオール外相)などと反発していた。
トルコは(1)資金支援(2)EU域内を旅行するトルコ人のビザ免除(3)EU加盟交渉の加速――などの対価を得ない限りは、EUに到達した難民らのトルコへの送還などには応じない構えだ。
18日にはメルケル独首相が、トルコの総選挙2週間前という議論を呼ぶタイミングで最大都市イスタンブールを訪問。エルドアン大統領、ダウトオール氏と会談し、計画への理解を求めた。メルケル氏はトルコのEU加盟に反対の持論を封印し、一部分野の交渉加速に「応じる準備ができている」とも語った。
難民問題への対処はトルコ・EU共通の課題だが、双方の事情は大きく異なる。2011年にシリア内戦が始まって以降、トルコは200万人以上の難民を受け入れてきた。一方、EUがトルコからギリシャの島に渡る東地中海ルートを通じた難民急増に直面したのは15年に入ってからだ。トルコ側にはEUに対し、「受け入れ当事者になるまで、危機に無関心だった」(政府高官)との不満が根強い。