沖縄全戦没者追悼式を終え、退席する安倍首相(左)と見送る翁長雄志・沖縄県知事=23日午後0時51分、沖縄県糸満市の平和祈念公園、上田幸一撮影
元米兵の男による女性殺害容疑事件の衝撃が続く中で迎えた沖縄「慰霊の日」。翁長雄志(おながたけし)知事は23日の沖縄全戦没者追悼式で、米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の辺野古移設に反対する姿勢を鮮明にした。ただ安倍晋三首相は移設推進の方針を変えておらず、両者の確執はさらに深まっている。
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「到底許容できるものではありません」。翁長氏は23日の追悼式で行った平和宣言で、安倍政権が進める普天間の辺野古移設計画を改めて批判した。
式典に参加した聴衆から拍手が湧き、指笛が鳴る間も、翁長氏は演台から正面を向いたまま宣言を読み続けた。式典の終了後、翁長氏と安倍首相が言葉を交わすこともなかった。
普天間の辺野古移設をめぐる政府と県の対立は今年3月、辺野古沿岸部の埋め立て取り消しをめぐる訴訟合戦をそれぞれがいったん取り下げ、和解が成立した。ただ、両者の話し合いは実質的に進んでいない。6月中旬に国の第三者機関は判断を下さず、政府と県のにらみ合いが続く状況だ。
さらに、元米兵の事件も重なり、地元の反米軍基地感情が高まる中で慰霊の日を迎えた。翁長氏による今年の平和宣言には辺野古移設への反対のほか、「米海兵隊の削減」や「日米地位協定の抜本的な見直し」も加わり、政府への対決姿勢がより鮮明になった。
翁長氏はこれまで、選挙のたびに辺野古移設の是非を争点に据え、選挙に勝つことで「沖縄の民意」を国内外に示す手法をとってきた。6月初旬の県議選では知事支持派が過半数を得ており、次の舞台を7月10日投開票の参院選沖縄選挙区に据えている。
社民、共産などの政党のほか、企業や団体でつくる「オール沖縄会議」は、辺野古移設に反対する元宜野湾市長を擁立。翁長氏は、その選対本部の筆頭共同代表に就任した。自民党公認の現職に対し、翁長氏側は「相手候補は沖縄担当の現職大臣であり、安倍内閣そのもの」(知事派県議)と話す。
翁長氏はこの日、首相を那覇空港に見送った後、政権の問題解決に向けた姿勢について記者団にこう語った。「私たちのペースに、まったく合っていない」(岡田玄)
■会談も遊説もなくとんぼ返り
「米国とは地位協定上の軍属の扱いの見直しを行うことで合意し、現在詰めの交渉を行っている」。首相は追悼式での4分間のあいさつのうち、1分近くを元米兵による事件に充てた。
安倍政権は、日米地位協定で特権的な扱いを受ける米軍属の範囲を整理し、日米の閣僚級で合意するなどこれまでより強い形での見直しを実現したい考えだ。普天間の移設計画への影響を避ける狙いもあり、首相はこの日のあいさつでも、事件後の政権の取り組みを強調した。
一方、首相は翁長氏が反対した辺野古移設には触れなかった。首相は追悼式の終了後、辺野古移設をめぐる対応について記者団に問われ、「国と県が互いに協力し、努力していくことが大切だ。円満な解決を目指したい」と述べた。
だが、裁判所や国の第三者機関が促す政府と県による話し合いの場が開かれるめどは立っておらず、互いの不信感は増すばかりだ。政府高官は、翁長氏が平和宣言の中で辺野古移設に反対したことについて「首相は一日を沖縄に捧げたのに、なぜああいうことを言うのか、理解できない。沖縄は普天間を政治利用している」と憤った。
首相は、辺野古埋め立てを承認した仲井真弘多(ひろかず)・前知事とは追悼式後に昼食をとりながら会談していた。だが、昨年と同じく、今年も翁長氏との会談は見送られた。首相官邸の幹部は「選挙のさなかに会談できない」と指摘。与党が推す閣僚の現職と、翁長氏が支える新顔が正面から争う参院選が終わるまで、沖縄との対話は難しいとの見方を示す。
参院選公示翌日の沖縄訪問となったが、首相はこの日、現職の応援演説はせず、4時間弱の滞在で沖縄を後にした。(山岸一生)