鍵さん夫妻が経営する「舟屋の宿 鍵屋」。窓の外には海が広がる=京都府伊根町
海に浮かぶ町――。そう呼ばれる場所が京都府北部の伊根町にあります。海にせり出した家々が並び、独特の景観を形成する「伊根の舟屋」。明治時代には豊漁にわいたこの漁師まちは人口減少に陥りましたが、近年は新たなビジネスモデルも登場し、観光地としての挑戦が続いています。
時間をめぐる物語「時紀行」
(時紀行)時の余話:海上タクシー、漁師が軽快トーク
■時紀行:2009年3月6日 舟屋に新風
春先の伊根湾にせり出すように並ぶ家々。1階の床は海側が海水につかるように傾斜し、穏やかな波を受け止める。「海に浮かぶ町」と呼ばれる「伊根の舟屋」。京都府伊根町の沿岸5キロにわたり、約230軒の舟屋が並ぶ。
背後は山。海に浮かぶ青島が風や高波を遮る。湾沿いに工場や川もなく、海は青く澄んでいる。ブリやハモなどが水揚げされる豊かな漁港だ。
舟屋で暮らす人々は、釣り上げた魚を家の軒先に干して干物にし、民宿を営む人々は、その日にとれた魚介類を観光客向けに海側の家の前でさばく。海に捨てられる魚の内臓を狙ってウミネコの集団が空をゆったりと舞う。
町観光協会によると、現在の景観が形成されたのは江戸時代中期とされる。漁業で生きる人々は舟屋に小型の木舟を引き入れてとめ、早朝に舟に乗って漁に出かけた。協会の担当者は「地形や漁業、生活が一体化して生まれた独特の景観」と評する。12年前、漁村では初めて国の重要伝統的建造物群保存地区に選定された。
近年は、人口減や空き家の増加に悩む。そんな中、2009年3月6日、伊根湾に新たな風が吹いた。元々多かった素泊まり宿と一線を画し、「1日1組」に限定した宿「鍵屋」が、開店したのだ。