明秀日立の増田陸主将=2018年3月23日、兵庫県西宮市の阪神甲子園球場
第90回記念選抜高校野球大会は31日に8強が出そろう。昨春の覇者の大阪桐蔭と戦う初出場の明秀日立(茨城)の主将、増田陸君(3年)にはひときわ強い思いがある。相手の中川卓也主将(同)は中学時代のチームメート。成長した姿をひのき舞台で見せつけたいと闘志をみなぎらせる。
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16日の抽選会。増田君の視線の先に大阪桐蔭の中川君の姿があった。先にくじを引いた中川君が22番。中川君はくじを引こうと前に立った増田君に「隣の23番を引け」と指で「2」「3」とサインを送った。増田君はにやりと笑った。結局、3回戦で戦う組み合わせになると、増田君は「最初からやりたかったんですけどね。必ず2回勝って、大阪桐蔭とやりますよ」と意気込んだ。
増田君は大阪出身の遊撃手。中学時代は大阪福島シニアで二塁手の中川君と二遊間コンビだった。ただ、打撃センスもチームでの存在感も中川君が上だったという。ランニング中に近道をして、主将の中川君から注意されたことも。同シニアの中尾学監督(37)は「増田は陰に隠れる存在だった」と振り返る。
2人は別々の道を歩んだが、関係を知る明秀日立の金沢成奉(せいほう)監督(51)はライバル心をあおった。「中川は(2年で)甲子園でプレーしてんのに、お前は何してんねん」。実家からは中川君の活躍ぶりが載った雑誌が送られてきた。「打倒 中川」。増田君は寮の部屋のホワイトボードに書き込んだ。とにかくバットを振り、毎晩1キロの白米を食べる「食トレ」を続けた。
昨夏、心境の変化があった。甲子園で大阪桐蔭は中川君が九回2死から一塁ベースを踏み損ねるミスをした後、サヨナラ負けを喫した。寮のテレビで見ていた増田君は「あいつも失敗をするんだ」と「正直、安心した自分がいた」。だが、中川君がその後、新チームの主将として前向きに再スタートを切る姿に胸を打たれた。増田君は当時、新主将に任命されてチームの統率に苦労していた。「中川でもミスして前向いてるんやから、こんなんで落ち込んでたらあかんわ」。ライバル心に、「尊敬」が加わったという。
増田君は昨秋の関東大会で2試合連続本塁打を放ち、チームを甲子園に導いた。
2人は今年1月にあったシニアのOB戦で再会。「打撃練習どうやってんの」。かつては増田君が野球について尋ねるばかりだったのに、初めて中川君に質問され、実力を認めてもらえた気がした。
増田君は迎えた今大会でも2試合で長打3本を放つなど強打を見せている。
増田君について「守備職人」のイメージを持っていた中川君だが、「甘い球を一発で仕留め、変化球への対応もうまい」と警戒している。増田君は言った。「今度は目の前で見せてやりたいな。俺の成長」(笹山大志、遠藤隆史)